ポーション(ジェネ♂、修羅♂)
「なんか色々あるねぇ......」
プロンテラの大通り。露店街の一角に広げられた店のひとつで、色とりどりのポーション瓶を眺めながら、璃緒は傍らにいたジェネティックに目を向ける。
「要るならどれか試してみるかい?」
にこやかにひとつを手に取り、差し出す。
「うんうん、どれがいいかな?これとかどんな効果があるのー?レイジ」
手ごろなポーションを手にし、軽く振ってみる。一見すれば白ポーションとなんら変わった様子は見られない。
「ああ、それは確か身長が伸びる薬......」
「買う!今買う、すぐ買う!いくら!?」
説明も終わらぬ内に物凄い剣幕で詰め寄る璃緒を両手で押しとどめ、
「そいつは試作品なんだ。それでも良けりゃ持ってけばいい」
「ほんと!?ありがと!じゃあもらってく!」
満面の笑顔で頷く璃緒。せっかくだからと普通の白ポーションも購入し、ご機嫌でその場を後にした。
璃緒が立ち去った後、あっ、と何かを思い出したような顔をするレイジ。
「そういえばあれ、副作用があった気がしたんだが......ま、大丈夫か。命に別状はないだろうし」
と、自己完結して店の業務に戻ったのだった。
購入した白ポーションを診療所に届け、自宅に戻った璃緒。
例の試作ポーションを取り出して、じっくり瓶を眺める。
「伸びるかな?これで」
モンク系といえば身体的に恵まれたものも多い上に、天津人はルーンミッドガッツ人と比べてもやや小柄なものも多い。
とりわけ璃緒は身長について強いコンプレックスを抱いていた。転生して若干伸びたとはいえ、それでも170センチには満たないのだ。
そんな悩みを本当にこれ一本で解決できたら、そんな嬉しいことはない。
「何事もチャレンジだよね!」
勢いが大事、といわんばかりに瓶のふたを開け、一気に中身をあおる。
「レイジ!これ!」
昼下がりのもっとも暇な時間。露店を出したままうとうととしていたレイジはバタバタと騒々しく駆け寄ってくるものにたたき起こされた。
「ん?あぁ......薬早速飲んだのか」
目の前には修羅が一人。黒い髪はばさばさと無造作に長く伸び、頭からは髪と同じ毛色の耳がぴんと生えており、その背中では同じ色のふさふさとした尻尾が揺れている。
「なんか、これどういうこと!?」
声色からしてどうやら璃緒であるようだが、肌の色は先程と比べると明らかに浅黒い。
「ああ、成分にアトロスのエキスを配合したんだが、やっぱしそうなるなぁ」
「アトロスー!?」
えー!?と大きな声を上げる口には発達した犬歯が見える。
「やつの生命力があれば体格もでかくなるだろうと思って試験的に作ったものだったんだよ。でも、璃緒は元々犬っぽいしよく似合ってるじゃないか」
「えー!?」
「いざとなったら1日経てば効果は切れるし、一回キルリザしてもらえば治ると思うよ」
「......うー......」
にこやかなまま冷静に答えるレイジに、何より後先考えず使った自分にも非はあるわけで。
納得いかないような、そんなうなり声をあげる璃緒であった。