紅茶(AB♂、修羅♂)
「ねえ、これはなあに?」
プロンテラ大聖堂の傍らにあるテーブル。普段は聖堂の司祭が休息のひと時を過ごす場所。
璃緒は、テーブルに置かれた布の袋のようなものを指し、傍らに座るアークビショップに尋ねる。
「これはティーコジーだよ」
サンドウィッチやスコーンを乗せた小皿を並べつつ、アークビショップのステラは穏やかな口調で答える。
「てぃー......こじぃ?」
傾き気味だった首をさらに傾け、目の前の袋を眺める。ティーはおそらくお茶なのだろうということまでは推察できたが、この袋とお茶、どんな関係があるのだろう。
「中身見てもいい?」
袋の中身が見たくて仕方ない様子でソワソワとたずねる璃緒に、
「今は駄目だよ。少しだけ我慢していたら見せてあげる」
と、穏やかな物腰のまま答える。
待っていれば中身が見れる、と理解した璃緒は、じゃあお邪魔するね、といい、向かいの席に腰掛けた。
待ち始めて数分。時折テーブルに置いた懐中時計を眺めていたステラがスプーンを手に取る。
「お待たせ、中身が見れるよ」
そういって、そっと袋のようなものの上部を摘み、静かに上に引き上げる。
「あ、ポットだ」
袋はどうやら下面が開いているらしく、中から出てきたのは真っ白な陶器のティーポットだった。
「こうして、おいしいお茶ができるまでお湯の温度を下げないようにするのがティーコジーだよ」
ポットのふたを開け、手にしていたスプーンで軽くひと混ぜ。
湯気とともに紅茶の良い香りが広がる。
「良い匂いだね......!いつも俺が淹れるお茶と違う」
くんくん、と鼻を鳴らす璃緒。淹れたての茶は確かに良い匂いがするが、いま目の前にあるものとは違うように感じる。このお茶はどこか、香りに魅了されそうな、そんな気持ちになる。
「お湯の注ぎ方ひとつ、淹れ方ひとつでお茶の風味は変わってしまうね。あ、そこのカップを取ってもらっていいかな?」
「ほえ?はぁい。......カップもあったかくするんだね?」
「そうしておかないとせっかく保温したものも台無しになってしまうからね」
カップをステラの前に淹れやすいように並べると、ステラはティーポットを片手に、小さな茶漉しをもう一方の手に持ち、静かにポットを傾ける。
ポットの口から注がれる琥珀色の液がカップを満たしていく。
最後の一滴まで注ぎ終わり、
「さぁ、冷めないうちにどうぞ」
と、一客を璃緒の前に置いたのだった。